レトリック

わかったふりをした専門家たちが 私たちの生活に口を出し 新しい生活様式などという枠をはめ お願いという名の命令を発表した  マスクを着けろ  冷房時には窓を開けろ  毎朝体温を測れ  健康チェックをしろ 命令に添えられた優等生の作文からは なぜそうしなければならないのかは 伝わってこない 先人たちが勝ち取ってきた行動の自由は 感染症対策といって制限され 移動の自由は奪われて 近くに住む人にさえ会いに行けなくなった 病人を見舞ったり死者を弔ったりすることも 前のように自由にはできなくなり 老人施設にいる年老いた母にも 会いに行けない 施設という監獄のなかにいる人は 誰もがまるで囚人のようだ これもすべて生存のため いのちを守るために協力してください 言葉は優しいふりをするが 使われているレトリックは凶暴だ 人間であるための条件を奪われて 怯えのせいで我を忘れ 攻撃的になった人たちが 大事なものを捨てて群れを成す いのちを守るためだけに すべての自由を差し出して 私たちはいうことを聞く素晴らしい民だと なぜか胸を張る 自由とか違いとか 善だと固く信じてきたものが突然悪になり 考えないとか みんなに従うとか 悪だと固く信じてきたものが突然善になる 見当違いばかりのなかで みんなでいのちをながらえて すべてを失った人たちのなか ウイルスの声が聞こえてくる 地球が人のものだなんて 誤解したほうが悪いんだ 地球はみんなのためにある 石や木や水やウイルスを 忘れたほうが悪いんだ ウイルスは笑わない 石は動かず 木は静か 水は今日も流れ続ける